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人手不足は本当に深刻――右肩下がりで不足感強まる
人手不足の実態を示すのはなかなか難しいのですが(政府も統計ルールをあれこれいじって雇用環境を良く見せようとしていますしね)、実感としては厳しいものがあります。
私は仕事で中小規模の経営者層と話す機会も多いのですが「給与を上げても人が集まりにくい」「求める人材を確保するのが難しくなった」という声が多く聞かれます。
それはそうです。少子高齢化で労働人口が減っているためですね。日本の多くの企業は、年功序列の給与体系を取っています。一定の年齢を超えれば賃金が上がらない(低くなる)ということになりますが、基本的には歳をとるごとに年収は上がっていきます。
今は少子高齢化が進んできているので、若い社員が雇用し難くなっている。高い給料を払わなければならない中堅の社員の比率は増え、結果、労働力に対する生産性(利益率)は低下することになります。
下は、日本銀行の調査(18年12月調査)から抜粋したグラフです。企業(全産業)に対するアンケートで雇用人員の過不足感を調査しています。雇用人員が「過剰」とした回答割合から「不足」とした割合を引いたものを、推移としてまとめたものです。
グラフをみると、雇用は90年代後半をピークに、不足感が強まっていることが分かります。2008年頃に急激に過剰感が強まっているのは、リーマン・ショックにより世界経済が大きく悪化したためです。仕事がなくなり、新規投資も冷え込んだことから、労働力が余っていたんですね。ですが09年以降は、10年に渡って労働力不足が継続しています。
また、大企業の方が不足感が弱いことも指摘しておいた方がいいですね。00年台半ばから12年頃までは大企業も中小企業も不足感はほぼ同じでしたが、近年は大企業より中小企業の労働力不足が深刻となっていることを表しています。
もはや、単純作業に人は集まらない
こちらは厚生労働省の「人手不足の現状把握について」という資料からの抜粋です。同省の「労働経済動向調査」「雇用動向調査」から、産業別の人手不足感をまとめています。
資料によると、運輸業・郵便業、サービス業、医療・福祉、宿泊業、飲食サービス業、建設業が“人手不足産業”としてピックアップされています。他にも、製造業や生活関連サービス業/娯楽業、卸売業/小売業などの産業で、人手不足感が強いことが分かります。
これら産業に共通するのは、付加価値を産まない単純労働での人手を必要としている点です。
不足感が一番強い、「運輸業・郵便業」はドライバーもそうですが、倉庫などでの仕分け、梱包に人員を必要とします。そうした作業においては、センター長などは効率化が求められますが、作業員においては付加価値の創出は求められません。求められるのは勤勉に仕事をすることくらいでしょう(もちろん現場から効率化や新たな案件につながるアイディアが出てくれば歓迎されます)。
医療・福祉、宿泊・飲食も同様。少人数でやっている事業を別とすれば、現場での手厚いサービスは感謝こそされても、利益拡大には直接的にはつながりません。
労働市場は今後も売り手市場、つまり雇用される側が仕事を選べる傾向が強くなっていきます。こうした付加価値を産まない仕事は、なかなかキャリアアップにもつながらず、若者の人気は低下していく一方です。
生産年齢人口(15歳から65歳未満)の減少も深刻です。総務省の報告によると、日本の生産年齢人口は、2015年現在で7592万人いますが、これが30年には6773万人、60年には4418万人にまで減少すると見込まれています。
労働力を海外に求める―入管法改正で外国人労働者が増加
それでも効率化しきれない部分もあるでしょう。となると、その労働力をどうするか。そうです。外国人労働力の活用です。昨年12月には入管法(出入国管理及び難民認定法)が改正されました。4月の施行が予定されています。
高度人材や技能実習生に限定されていましたが、改正入管法では、業種制限とその業種ごとの受入制限もありますが、特定技能を持つ外国人労働者の受け入れが可能になります。
ここでいう特定技能については、不明確な部分が多いと問題視されていましたが、生活に差し障りのない程度のコミュニケーションが取れて、その業種に一定の知識や技能を持っているということとされているようです。
人事担当者が海外出張に行く時代
入管法の改正が1つの象徴的事例ではありますが、傾向として抑えておくべきなのは、外国人を雇うためのハードルがだいぶ下がってきているということです。入管法の改正は成立までのプロセスに問題こそあれ、対策としては必要なことだったでしょう。法律・制度の運用や制限については、厳しく政府や運用者を見ていく必要はあると思いますが。
製造業などの労働集約産業では、安い賃金を求めて海外に生産拠点を移管していきました。初めは中国に、そしてリーマン・ショックで景気が悪化した頃からは、中国のコスト増加と相まって、東南アジアに生産拠点を開設する動きが続きます。
これからの動きは、海外に働く場所を用意してそこで人を雇うのではなく、日本に人を呼んでくる、そういう労働力の調達となっていきます。
もちろんそれは現地の日本語学校などがブローカー/代理店となって、人を集めてくるのですが、一定数を雇ったり、良い人材を求めるとなると現地に行って、試験や面接を行うことも必要でしょう。
そしてこれはもう始まっている動きです。実際に私が聞いた、ある企業の例を挙げてみます。
構内作業の請負を手がけている某社では、300人ほどの従業員がいますが、そのうち10%の30人はベトナム人の技能実習生となっています。人事担当者が年に2回ほど現地に赴き、現地代理店が集めた人材を対象に試験・面接を行って雇用しているそうです。
驚いたのが採用が決まった人の家には、家庭訪問に行くそう。代理店を間に入れているとは言え、家庭の財務状況などのリスクはあるとのことで、そこを確認するそうです。実際、家族・親戚総出で熱烈な歓迎を受け、なかなかそのリスクを判断するのは難しいようですが。
外国人労働者が働きやすい環境作りも大事
こうした光景は、既に欧州では一般的です。ドイツやイギリスなど経済国の産業は、東欧やトルコ、北アフリカの移民労働者によって支えられています。日本もアジアの他の国からの労働者に頼る時代が遠からず来るでしょう。
自分の仕事はバックオフィスだからと言って、言語や異文化に対する理解をサボっていては、使えない人材と見られてしまうようになってしまうかもしれませんね。