早すぎる評価?
こんにちは、よっぷです。少し前のニュースですが「このマンガがすごい!2019」が発表されていました。中でも気になったのは、オトコ編第1位の石黒正数『天国大魔境』。
好きな作家さんで注目してはいたのですが、その時点でまだ未読でした。なぜかと言えば、“まだ1巻しか出ていないから”。
私は、たまにジャケ買いなど衝動的に購入することもあるのですが、普段はある程度評価を受けた作品を手にすることが多いのです。ですので、既刊1巻のこの作品はまだ手に取っておらず、そんな作品がもう著名なマンガアワードに選ばれたということで驚きを覚えました。
日常の中のちょっとした非日常
石黒正数の代表作は、『それでも町は廻っている』『木曜日のフルット』そして、私が衝撃を受けた『外天楼』。
その作風についてwikiではこう書かれています。
影響を受けた漫画家として、藤子不二雄、大友克洋、小原愼司を挙げている。初めて読んだ漫画が藤子の『ドラえもん』であり、中学生の頃まで藤子の漫画ばかり読んでいたと語る。特に藤子・F・不二雄に受けた影響は大きく、自身の作風は藤子の作風である「S・F(すこし・ふしぎ)」を更にリスペクトしたものであるとしている。
from Wikipedia
『それ町』も『外天楼』もそうですが、確かに藤子・F・不二雄の影響を強く感じられます。普通の日常にちょっと変わった要素というか、違和を入れ込むのが凄く上手い。小ボケも交えながら描かれる日常の中の、ちょっとした非日常が読者にトリップ感を与えてくれる、そんな作風です。
割と日常系の作家さんに分類されることが多いのでしょうか。そんなレビューをよく目にします。10年以上に渡ってヤングキングアワーズに連載された『それ町』はそれこそギャグマンガですし、『フルット』に至っては3頭身キャラのショートギャグ。シリアスな感じは全くありません。
『外天楼』は伏線回収が秀逸な珠玉の作品
ただ『それ町』『フルット』しか読んでいない方も、『外天楼』を読めば彼の真骨頂が日常系ギャグでないことが分かると思います(『それ町』だけでもその能力は十分わかりますが)。
『外天楼』は、一見オムニバス形式の作品となっており、SFを織り交ぜたギャグテイストのおとぼけミステリーという印象。SF的な社会風刺もあり、ギャグとどこか考えさせられるストーリーテリングで、一話一話それぞれ単独でも読むこともできます。
それが後半まで読み進めていくと、関係なかったかのように見えた話、ヒトがどんどんつながっていく。ギャグでカモフラされながら散りばめられていた伏線が見事に回収されていく。伏線回収のすごさは、全くジャンルも違いますが映画『ユージュアル・サスペクツ』かそれ以上に見事。最後には意外過ぎる展開で、良い意味での後味の悪さを残してくれます。
期待の最新作!少しシリアスな印象?
そんなストーリーテリングの秀逸さを持つ石黒先生の最新作が『天国大魔境』です。※ここからは、核心にはなるべく触れないようにしますが、若干のネタバレを含みますのでご了承ください。
1巻では2つの物語が進行していきます。1つは、隔離された学校のような環境で生活している子どもたちの話。そこは“壁”によって完全に外部と遮断されています。ロボットが授業をやっていたり、少し未来の設定でしょうか。何の目的で子どもたちを隔離しているのかは不明。何かから守っているのか、特別な目的のために育てているのかは分かりません。今のところ何か超能力があるようには見えませんが、身体能力は超人的なようです。
隔離された学校という舞台は、カズオ・イシグロの小説『わたしを離さないで』が思い起こされます(イシグロつながり?)。これまでの作風と少し違うシリアスな印象を受けました。
主人公の少年トキオは、感度の高い少女ミミヒメのことが好きなのですが、彼女の「外ってどうなっていると思う?」という言葉から、“外”を意識するようになります。そこでマルは外があるのかと、大人に尋ねるのですが、帰ってきた言葉は「(外はあるがそこは)あさましい怪物がうごめく、汚れた世界。地獄です」――と。
2つの物語が進んでいく――。
もう1つの物語の舞台は、何らかの災害で荒廃した世界の日本。私たちが住んでいる社会と似ているけれど、少しだけ未来のような感じもあります。世界観は井上智徳『COPPELION』にも似ていますが、完全にインフラと統治機関は機能していないもよう。望月峯太郎『ドラゴンヘッド』の世界観の方が近いかもしれません。ただ、石黒先生の作風もあってか、寂れた印象と少しの明るさを同時に感じました。
ここでの主人公はマルという少年と、マルが“おねーちゃん”と呼ぶキルコ。隔離された子どもたちよりは歳上のようです。
2人は、すでに人のいない家へ、空き巣のようなことをしながら、“天国”という場所を探して旅をしている。キルコがマルのボディガードとして同行しているのですが、キルコの方でも人を探す目的があるようです。
マルとキルコはもう片方の主人公トキオ、そしてミミヒメと顔が似ている。年齢は違いますが、ここがポイントになりそうです。外に行きたいというミミヒメはトキオに対して「外からふたりの人が助けてくれるイメージがハッキリしてきた。その内の1人がトキオにそっくりなんだ」と言うのです。
この世界には“人食い”または“ヒルコ”と呼ばれる鳥のような怪物が存在している。天国を探す道中、2人は人食いに遭遇するのですが、そこでマルがヒルコを超人的な能力と特殊な方法で倒す。マルは特殊な能力を持った存在のようです。人食いがなぜ存在しているのか、人食いの発生がこの世界を荒廃させた原因なのか、そこはまだ詳細が描かれていません。
1巻では、農作を行いこの世界で自立して生きようとする(少しヒッピーのような)コミュニティとの出会いなど、怪物と世界観が描かれるまでですが、なかなか設定は面白そうです。
一巻を読み終えた感想を率直に言えば、まだ設定が読者に提示されただけという段階でしょうか。読めば期待は高まりますが、まだ語られていない、描かれていない要素も多く、現段階で評価は難しいと思ます。どうここから展開していくか。どう伏線を回収していくか。もう少し続きをみてから、感想を書いてみたいと思います。
ただ月刊紙の連載なんですよね笑。気長に次巻の発売を待ちましょう!