書籍

歴史の再入門、オススメ本紹介!

こんにちは、よっぷです。今日はオススメ書籍の話。先日、ツイッターをザッピングしていたら加藤陽子さんのお名前が挙がっていたので、久しぶりに本棚から引っ張りだしてみました。

暗記や物語じゃない歴史の面白さ

今日、オススメするのは加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(新潮社)。初版は09年の本ですが、16年に文庫版が発売されています。

著者の加藤陽子さんは東大の教授で、日本の近現代史を先行とする歴史学者です。新潮社の本書紹介ページには、現代日本を代表する知識人である佐藤優さんの書評が載っていますが、氏をして「私は、同世代の知識人で、何人か心の底から尊敬している人がいる。その一人が加藤陽子氏だ」と言わしめています。

オススメの理由は、この本は歴史を勉強する上での入門書として、非常に優れているという点です。特に、暗記が苦手で歴史が嫌い/得意じゃなかった、歴史物語を読んでも楽しくない、という人が、もう一回ちゃんと歴史を勉強してみようかなと思った時に読んでほしい一冊です。

改めて、本作の紹介を。この本は、2010年の小林秀雄賞を受賞した名著です。著者が行った中高生への5日間にわたる集中講義をベースにまとめられた本で、先生が生徒たちに、日清戦争から太平洋戦争に至る当時の日本がどのようにそれら戦争へ参戦していったのか、どうして悲惨な結末を迎えるような判断を下してしまったのか、その論理をレクチャーしています。

栄光学院という学校で、歴史研究部という歴史好きな生徒たちに行た講義なのですが、ここの生徒たちの反応や回答が非常に優秀(もしかした書籍化にあたって補正はされているかもしれませんが、と思うくらい優秀)で、テンポよく読めます。

中高生向けの講義というと少し物足りなそうと感じられた人もいるかもしれませんが、少なくとも日本史を専攻せず、それほど学生時代に歴史好きではなかった私などより、この生徒たちの知識は豊富で、歴史の再入門書としてはちょうど良い内容になっていると思います。

歴史的なモノの見方、のススメ

とりあえず、歴史への向き合い方、なぜ歴史を学ぶのか、それを生徒たちに伝えている序章だけでも読む価値があります。

加藤先生は自分の一番の専門は1930年代の外交と軍事だと紹介し、
生徒たちに「このような、下り坂に向かっていく時代をやってどこが面白いのかとはよくいわれますが(笑)」と自嘲したあとで、その面白さを説明していきます。

特に序章で伝えられるのは、歴史のある事柄を、特定の視座で見ていくと多くの共通項とともに、隠された意図や論理が見えてくるということです。加藤先生は、その例として戦争が何の目的で行われるのかということを取り上げ、生徒たちに問いかける。

一般的に、近代までの戦争がなぜ行われたかと言われれば、領土拡大のためとか、相手国を支配し自国の利益のために働かせるため、と帰ってくるのではないでしょうか。それも正解だと思いますし、生徒たちの反応もだいたいそれに近いものでした。

加藤先生は日本の敗戦後、何が行われたかに着目すると見えてくるとヒントを出す。つまり憲法が変わったという点ですね。これが近代の戦争に共通するものだというのです。

しかも、それを200年以上前の思想家ルソー(1712~1778)が指摘していることを紹介する。ルソーは「戦争は国家と国家の関係において、主権や社会契約に対する攻撃、つまり、敵対する国家の、憲法に対する攻撃、というかたちをとる」と述べています。

加藤先生は、こうした視覚や歴史的なものの見方に気付くことが、その時の事象や、物事の関係性を分析するのに役立つ。それが歴史の面白さにつながっていくと説明してくれています。 

歴史は科学だと思いますか?

序章の後半の指摘も非常に重要です。加藤先生は「歴史は科学だと思いますか」と生徒たちに問いかけます。

大学などで、歴史学、社会科学について適切なレクチャーを受けていない限り、歴史は科学とは違うという印象を受けるでしょう。公式、理論を用いて唯一の“解”を導き出すという科学や数学と、多数の解釈ができる歴史とでは、その性質に違いを感じるのは当然です。

ですが、やはり、事象を分析するために、理論や特定の概念を用いるという点においては、学問としての歴史や社会科学も同じです。上記のような戦争の目的を通してみていくと、国家の関係性や意図が浮かび上がってくるわけです。

そうした点を、歴史学の偉人、E・H・カーの言葉を紹介して説明していきます。カーの代表著書『歴史とは何か』で述べた「歴史とは現在と過去との間の尽きぬことを知らぬ対話」というフレーズは、歴史学の本質を語るときによく引用されています。

カーこそが、歴史は科学であると指摘した人物です。現在と過去、事象と事象の関係において読み解いていくことで、一般化できると指摘する。その上で、歴史学やその文法、理論を分析に用いることが、歴史を社会的な有益性を保持するものに変えるのです。

ロマンに陥らず、歴史を読み解く

歴史というと、どうしても特定の人物や大きな物語の理想主義、つまりロマンに走り勝ちです。歴史好きな人のほぼイコールが、特定の人物や時代にロマンを感じているのではないでしょうか。それが悪いとは言いませんが、また違った面白さもあるということには気付いておくべきだと思います。歴史が科学と比べて役に立たないものではないのです。

以前のエントリーで文系こそ論理的思考を持とうという記事を書きましたが、今回の記事もそれにつながるものです。

加藤先生は、特にそうした見方をすること、つまり特定のロマンに没入せず、事象と自身の距離を保ち分析することで、その時代、国家と国家、人と人との関係性を読み解いていく。それができる歴史学者です。

物語としての歴史も面白いものですが、分析対象としての歴史もなかなか面白い領域です。一般的な歴史書と違って、講義形式の話し言葉で書かれた本ですので、一度手に取ってみてはいかがでしょうか。

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